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鬼と長イモ

群馬の白根山や四阿山(あずまやさん)には、昔、鬼が沢山住んでいて、旅人から荷を奪ったり娘をさらって食べたり、悪さばかりしていました。
ある五月の節句の日、鬼の内でも一番意気地無しで、まだ一度も人間を食べた事のない鬼が「今日こそは人間を食べてやろう」と思い立ち、里まで降りて来ました。
一軒の農家に目星をつけて様子を伺ってますと、その家の女房が食事の支度をしておりました。その日の献立はとろろ汁らしく、女房は長イモをすり鉢で丁寧にすっています。ところが、女房がすりおろしている長イモが、意気地無しの鬼の目には鬼のツノに見えたのでした。
意気地無しの鬼は驚くと同時に「俺らのツノはいったいどんな味がするのだろう」と思い、近くの家からすり鉢を盗んで山に戻り、自分のツノを石でへし折って、すり鉢ですって見ました。しかし、ツノは少しもすれません。
その様子を見た仲間の鬼達が集まって、何をしているのかと問い詰めました。意気地無しの鬼は里での話をすっかり話して聞かせました。最初の内は誰もその話を信じませんでしたが、仲間の1匹が「実際に見に行ってみよう」と言いだしたので、鬼達は意気地無しの鬼を先頭に里へ降りて行き、さっきの農家をみんなで覗いて見ました。
丁度、その家では食事が始まったところで、主人と女房が出来たてのとろろ汁をごはんにかけて食べて居ました。やがて女房が「おかわりならいくらでもあるよ」と主人に向かって言いながら、かごの中に詰め込まれた沢山の長イモを取り出して見せました。覗いていた鬼達はそれを見てみんなびっくり仰天。
「あんなに沢山鬼のツノを集めてるぞ!」「うかうかしてると俺達もツノを取られてしまう!」「逃げろ!」驚き恐れた鬼達は即座に逃げ出してしまいました。
以後、白根山や四阿山から鬼は居なくなりました。後にこの話を伝え聞いた人々は鬼避けのまじないに、盛んに長イモを作るようになったと言う事です。
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