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蜘蛛の綾織

昔、都に貧しい焙烙(ほうろく)売りの男がいた。
ある雨の日、男が琵琶湖のほとりを通りかかると、一匹の大蜘蛛が湖で溺れていた。心のやさしい男は、見るに忍びずこの蜘蛛を助けてやった。
それから数日経ったある嵐の夜のこと。旅の娘が一夜の宿を借りに男の家を訪れた。男は、この疲れ果てた様子の娘を手厚く介抱した。
娘はあやと名乗り、介抱のお礼に機を織りたいと言う。しかしそれには一つ条件があり、自分が機を織るところを決して見ないようにと、男に約束させた。
あやが織り上げる反物(たんもの)は、それは見事な出来栄えで、織り上がるそばから高値で売れていく。
おかげで男の暮らし向きもよくなり、男はこの美しい娘を嫁に欲しくなった。男はあやに求婚し、あやもこれを受け入れた。
あやは男の女房になってからは、朝から晩まで機を織り続け、その織物はますます評判となった。ところが一方の男はと言うと、金持ちになるにつれ欲深くなり、以前のやさしい心を忘れていった。
そんなある夜、あやはさすがに疲れたのか、機織り機の前で居眠りをしていた。男は機織りの手を休まれてはもったいないと思い、
約束を破り隣の部屋をそっと覗(のぞ)いて見た。すると、何とそこにあやの姿はなく、代わりに大きな蜘蛛が眠っていたのだ。
男は腰を抜かしてしばらく茫然としていたが、もう一度部屋を覗くとそこに大蜘蛛の姿はなく、一片の和歌が書かれた紙が置かれているだけだった。
それにはこう詠まれていた。「恋しくは たずねて来たれ 下野の 那須のことやの あやおりが池」
男は、自分に尽してくれたあやに、やさしい言葉の一つもかけてやれなかったことを後悔し、あやを訪ねに下野の御亭山(こてやま)にある、綾織が池に向った。
池のほとりにはあやが待っていた。あやは男に、自分はこの池に住む蜘蛛で、琵琶湖に出かけた際に男に助けられたと明かす。
そして男に別れを告げると、その姿は池の向こうへと消えていった。男は約束を破ったことを謝り、あやの名を叫び続けたが、その声は空しく水面に響くだけだった。
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