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沼薬師如来

昔、利根川沿いのある村に、見事なスイレンを咲かせる沼があり、そのほとりには八百歳を超えようかという大木がそびえていた。
ところがある夏の夜、村を嵐が襲い、さしものの大木も風に耐えきれず、根元から倒れてしまった。
嵐が去った後、村人が沼のほとりに来てみると、大木は道をふさぐように倒れていた。これでは通行の邪魔になるというので、村の男たちが集まり、大木を沼に沈めることにした。
さて、大木を沼に沈めた夜のこと、村の男の一人が、水の底でもがき苦しむような悪夢にうなされて目を覚ました。
すると、どうした訳か男の目が見えなくなっていた。
その後も村では失明するものが後を絶たず、そして決まって目が見えなくなる前に、水の底で苦しむような夢を見るのだった。
働き手を失った村の田畑は荒れ果ててゆき、困った村人は集まって相談することにした。
その結果、これは長い間村を見守ってくれた大木さまを、ぞんざいに沼に捨てた祟りに違いないということで、大木さまを元の場所に戻すことにした。
村人は大木に綱をかけて沼から引き揚げようとしたが、水を吸った大木は村人総出で引いてもビクともしない。
村人は途方に暮れて、ただ大木さまに必死に詫びた。するとその時、不思議なことに突然沼の水面が輝き、沼の底から大木が宙に浮かび上がったのだ。
そして大木はひとりでに元の場所に戻り、それと同時に目の見えなかった者も再び目が見えるようになった。
このことがあってから、村人は大木の芯の部分で薬師様を彫り、また残りの部分を使って小さな薬師堂を建てた。
この薬師堂は沼薬師と呼ばれるようになり、これ以降、村では目の病だけではなく流行病もなくなって長生きする者が増えたという。
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